「意外」な反響の大きさを奇貨として続編

(第74号、通巻94号)
    「意外に」と「意外と」の違い――前回のテーマは、内容が地味なのに加えて書き方もくどくなってしまったので、注目度が落ちるとハナから思い込んでいたら、まったくの読み違いだった。先週水曜日の更新初日からアクセスが “殺到”し、1日のpv(ページビュー)が1000カウントを超えたのである。寄せられた感想、意見の中には興味深い問題提起もあった。今号は、それらの声を参考に新しい知見も加えて「意外」続編としたい。
    言葉は光の当て方によって多様に反射する。今回の反射光の中でひときわ異彩を放っていたのは、‘tinuyama’さんからのブックマークコメントだ。それは、「『ぴかぴかに磨く』の『に(結果)』と、『ぴかぴかと光る』の『と(過程)』のような使い分けがあるのではないか」《注1》という意表をつく指摘だった。
    たしかに、『明鏡国語辞典』(大修館書店)の「と」の項には、「『に』は、結果(終着点)に、『と』は結果(内容)をそれと注目していう」と書かれている。また、「に」の項にも、「動作・作用の結果、状態や目的などを表す」とある。
    上述の説明だけでは「と」が「過程」を示すとは必ずしも断言出来ないが、副詞の中には、
1、「さすがに」「ついに」「ふいに」などのように「に」を伴う
2、「こっそりと」「わざと」「きちんと」などのように「と」で終わる
というグループがある。
    たまたま例に挙げた上の6語は、「に」と「と」を入れ替えることはできない。つまり、「さすがに」を「さすがと」というのはおかしいし、「こっそりと」を「こっそりに」とするのは奇妙ということだ。
    ところが、「に」と「と」を入れ替えることができる副詞もある。
    「自然に」「自然と」、「わりに」「わりと」などがそうだ。前回紹介したように、「意外に」と「意外と」もその仲間に近づいてきたが、それは外見的な印象。文法的には、“筋”が違うようだ。推理小説作家の佐野洋氏の説《注2》を借りると――
 [ 文法的にも「意外に」が正しいと思う。「意外」というのは、形容動詞ナリ活用の語幹であり、ナリ活用の形容動詞を副詞的に使う場合には、助詞「に」をとるのが、本来の形であろう。「静粛に」「冷静に」などがそうである。これに対し、同じ形容動詞でも、タリ活用の語幹は、助詞の「と」をつけて副詞的に使われる。「堂々と」「整然と」という風に……。]
となる。きわめて説得力のある説明だと思う。
    意味の上でも、「意外に」と「意外と」は微妙に違うように感じられる。「と」を使うと、単に口語的になるだけでなく、「かなり」「けっこう」の意がする。『新明解国語辞典』第5版が「と」の項で、副助詞としての意味を「(口語で)やや強意の副詞表現に属することを表す」と説明し、用例に「自然と」「やたらと」と出しているのも、「意外と」の語感と通じるものがあるように思われる。
    同じDNAから出た言葉であっても、長い年月の間に突然変異を起こしたり、言語的化学変化を生じたりして意味や用法が変化する。「意外と」はそのような変化の過程にあるのかもしれない。


《注1》 コメント原文は、旧仮名遣い。

《注2》 『言葉に関する問答集』総集編(文化庁)から引用。

《参考文献》 『日本語の文法』古典編(大野晋著、角川書店)、『日本語の働き』(野村雅昭編、筑摩書房)、NHKブックス『言語を生み出す本能』上、下(スティーブ・ピンカー著)、『日本語の化学変化』(岩松研吉郎著、日本文芸社)、『日本国語大辞典』第2版(小学館)、『現代国語例解辞典』第4版(小学館)など。